慶が生まれたのは2008年の春のことです。
私は妊娠高血圧だったので、大学病院で出産予定でした。
木曜日に出産しようと主治医に言われて、ボチボチ入院の準備をしていた日曜日の夜中、陣痛が来て、血圧が190を超えるまで上がってしまいバタバタと出産することになりました。
痛みが強いと血圧が上がるので、麻酔を使ういわゆる無痛分娩でしたが、それでも分娩中に血圧は210まで上がり、赤ちゃんの心音も弱ってしまいました。
「この一回で出すしかないからしっかりいきんで!」と助産師さんに言われ、はいと答えてうーんと唸ってはみたものの、麻酔で下半身の感覚は全くなく、お腹から出ようとしている赤ちゃんをアシストできている気はしません。すぐに若い男性の先生がお腹にまたがって赤ちゃんを押し出し、足元にいる先生が鉗子でひっぱり出しました。ドラマなどでは赤ちゃんの産声がオギャーと聞こえる場面です。
どうなっただろうと足の方を見ると、はぁ…というため息が聞こえ、うわあまいったなぁという表情の赤ちゃんが見えました。
赤ちゃんの様子が予想外すぎて、会えて嬉しいとか生まれてきてくれてありがとうという感慨は湧いて来ず、私は思わず赤ちゃんに向かって「お疲れさま」と声をかけていました。
これが私と慶との出会いです。